2022年8月31日水曜日

会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション


題名:光文社新書 会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション

著者:三木那由他

発行:光文社(2022.8.30)


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☆☆☆☆★


フィクション作品の登場人物による会話を「コミュニケーション」と「マニピュレーション」という観点から説明している本です.約束事の積み重ねというコミュニケーション観や,会 話の機能をコミュニケーションとマニピュレーションとに分けて整理すると色々見えてくるということについては,なんとなくそう思っていたことが言語化されていて腑に落ちました.会話によって共有された約束事がその先の行為を束縛する,ということについては,「それって言霊?」と思ったのですが,本文での記述がないのはなにか意図があるのでしょう.それにしても,この帯はずるい.

2022年8月30日火曜日

すごい神話 現代人のための神話学53講


題名:新潮選書 すごい神話 現代人のための神話学53講

著者:沖田瑞穂

発行:新潮社(2022.3.25)


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☆☆☆★★


神話について現代の小説や映画やゲームなどで生きているものとして解説されている本です.サブタイトルに「神話学53講」とありますが,学問についての講義が53回分ある,という意味ではなく,神話についてのトピックが53項目ある,という意味です.しかも,おそらく編集の意図でひとつの項目をふたつに割っているものもいくつかあるので,実質の項目数はもう少し少ないと思います.とはいえ,各項目が数ページに抑えられ,読みやすく構成されています.著者はインド神話の専門家とのことで,インド神話について書かれている最終章は面目躍如という感じですが,それまでの3章では世界各地の神話が紹介されていて,読み応えがあります.

2022年8月26日金曜日

フラットランド たくさんの次元のものがたり


題名:講談社選書メチエ フラットランド たくさんの次元のものがたり

著者:エドウィン・アボット・アボット

訳者:竹内薫

写真:アイドゥン・ブユクタシ

発行:講談社(2017.5.11)


FLATLAND

by Edwin Abott Abott

1884


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☆☆★★★


平面世界の主人公に低次元や高次元の世界はどう映るのかを描いた物語の翻訳新装版です.原書が書かれたのは19世紀,ヴィクトリア朝のイギリスでのことなので,社会情勢も小説手法も異なることを承知の上で読まないと,違和感があると思います.ただ,そこを差し引いても,2次元世界の住人の視覚や聴覚については疑問を感じます.まあ,そうしないと書けない,という事情もあるのでしょうが,なにか「大きな嘘」が欲しかった(と考えるのも現代の視座にいるからなのかも).

2022年8月24日水曜日

湖の科学


題名:湖の科学

著者:ワーウィック・ヴィンセント

訳者:占部城太郎

発行:共立出版(2022.4.30)


LAKES: A Very Short Introduction, First Edition

by Warwick F. Vincent

2018


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☆☆☆★★


湖沼の科学について書かれている本です.原題の副題にある“A Very Short Introduction” が表しているように,湖沼についての科学(陸水学)という物理や化学,生物などを含む幅の広い学問分野を簡潔にまとめた入門書,という感じです.湖沼学の中で大きな割合を占めるだろう湖沼の成因や形態についてはあまり触れられていません.そのあたりを知りたかったのに,残念.

8ページの下から6行目,「1982年」は「1882年」でしょうか.

一晩置いたカレーはなぜおいしいのか 食材と料理のサイエンス


題名:新潮文庫 一晩置いたカレーはなぜおいしいのか 食材と料理のサイエンス

著者:稲垣栄洋

発行:新潮社(2022.2.1)


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☆☆☆★★


食材や料理にまつわるあれやこれやについて自然科学の視点から書かれている本です.各項目が短く,読みやすく書かれています.説明は簡略化されていますが,その分,読み進めるために要求される科学的知識度はあまり高くありません.『マギー キッチンサイエンス』では読むのが大変そうだけど食べ物の科学について知りたい,という方にオススメ.

73ページに「セルロースは,水素結合という安定した結合によりブドウ糖どうしがしっかりとつながれているので」という記述がありますが,「水素結合」ではなく「共有結合」ですね.

196ページ8行目に「果実は『永年性作物などの樹木から収穫される果実』」とありますが「果物は『永年性作物などの樹木から収穫される果実』」だと思います.

2022年8月19日金曜日

中学生の数学嫌いは本当なのか 証拠に基づく教育のススメ


題名:中学生の数学嫌いは本当なのか 証拠に基づく教育のススメ

著者:内田昭利,守一雄

発行:北大路書房(2018.4.2)


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☆☆☆★★


科学的な根拠に基づいた教育のための調査方法のひとつとしての「潜在連想テスト」と,それによる調査で得られた,中学生の数学嫌いの多くが「偽装」であることが書かれている本です.「潜在連想テスト」というものがあることを知らなかったので,勉強になりました.ちょっと試してみたくなります.ただ,本書を読んでも具体的なテストについての事柄はよくわかりません.興味を持ったら論文や著者のサイトにアクセスしろ,ということでしょうか.科学的な根拠に基づいた教育が必要,という主張には全面的に賛成ですが,著者たちの方法以外についてはほとんど触れらていないのは(というか,日本においてはほぼない,という主張ですが)残念です.

2022年8月13日土曜日

「学力」の経済学


題名: 「学力」の経済学

著者:中室牧子

発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン(2015.6.18)


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☆☆☆☆★


日本の教育政策には科学的な根拠が必要だ,ということが書かれている本です.不勉強で「教育経済学」という分野があることを知りませんでしたが,科学的根拠に基づいた教育研究は,物理教育研究の分野では定番なので,書かれている内容については概ね共感できます.ただ,一般向けを意識して書かれているように感じるのに,肝心の「エビデンス」という言葉の意味の説明が,言葉としては「第1章」から出てくるくらい本書にとって重要な概念なはずなのに,末尾の「補論」にあるのは不親切かと思います.

2022年8月12日金曜日

道徳教室 いい人じゃなきゃダメですか


題名:道徳教室 いい人じゃなきゃダメですか

著者:高橋秀実

発行:ポプラ社(2022.3.14)


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☆☆★★★


おおむね,小・中学校の正式な教科となった「道徳」とは何か,について書かれている本です.おおむね,というのは,途中から明らかにトーンが変わるからで,奥付の前のページを見るとその理由がわかりますが,1冊の単行本としての分量を確保するために無理をしている印象を受けました.途中まで面白かっただけに,裏切られた感があります.

2022年8月11日木曜日

短編宇宙


題名:集英社文庫 短編宇宙

編者:集英社文庫編集部

著者:加納朋子,川端裕人,寺地はるな,酉島伝法,深緑野分,宮澤伊織,雪舟えま

発行:集英社(2021.1.25)


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☆☆☆★★


宇宙をテーマに編まれた短編アンソロジーです.宇宙をテーマにしているからといって,SFだけというわけではありません.7編それぞれに宇宙が感じられて楽しい.

2022年8月10日水曜日

マークの本


題名:マークの本

著者:佐藤卓

発行:紀伊國屋書店出版部(2022.5.30)


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☆☆★★★


著者が手掛けたシンボルマークやロゴマーク120点についての解説が書かれている本です.読みやすさを優先して,見開き右ページにマーク,左ページに解説文,という書式にしてあるのだと思いますが,もう少し詳細な解説を読みたい印象です.

ギガタウン 漫符図譜


題名:ギガタウン 漫符図譜

著者:こうの史代

発行:朝日新聞出版(2018.1.30)


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☆☆☆☆★


漫画の記号表現である漫符についての解説とそれが使われている漫画が描かれている本です.漫画を読み慣れている方にはどうということなく理解できる漫符ですが,記号である以上は誰かに発明されたもののはずなのに由来は意外と知らないな,と感じました.もはや漫符は漫画世界で閉じておらず,日常生活に溶け込んでいます.当たり前すぎて,これも漫符だったのか,というものもありました.記号表現に興味がある方にオススメ.

2022年8月8日月曜日

物理と特殊関数



題名:物理数学one point 物理と特殊関数 入門セミナー 

著者:新田英雄

発行:共立出版(1997.5.15)


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☆☆☆☆★


物理の「道具」としての特殊関数について若干の物語形式で書かれている本です.「はじめに」に書かれているとおり,特殊関数の本としては計算過程が丁寧に示されていて,ひとりでも無理なく学べるように配慮されています.物理で出てくる特殊関数がわからない,という方にオススメ.

123ページの下から5行目,行頭を1字出す.139ページの8行目「特性方程式」→「決定方程式」.141ページの式(8.23)内の「(N-m-1)」→「(N-(m-1))」,式(8.24)内の「C^l+1_0」トル.157ページの8行目,行頭を1字出す.(初版9刷にて)

2022年8月7日日曜日

マギー キッチンサイエンス 食材から食卓まで


題名:マギー キッチンサイエンス 食材から食卓まで

著者:Harold McGee

訳者:北山薫,北山雅彦

監訳:香西みどり

発行:共立出版(2008.10.15)


On Food and Cooking: The Science and Lore of the Kitchine

by Harold McGee

2004


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☆☆☆☆☆


食品,食材,調理法などについて網羅的に書かれている本です.二段組850ページを超える大判本(1.7 kg !)ですが,それだけに食にまつわる事柄が丁寧に,科学的に記述されていて,事典的に使うこともできます.日本とは事情が異なる項目もありますが,一家に一冊置いておいて損はない本です.

32ページの左カラム11行目「酸化窒素」→「亜酸化窒素」.109ページの左カラム4行目「フランス人 J. A. C. チャールズ」→「フランス人 J. A. C. シャルル」その後に出てくる「チャールズの法則」は「シャルルの法則」とした方が教科書などの記述と合うので混乱がないと思います.180ページの右カラム下から4行目「さている」→「されている」.198ページの右カラム5行目「猟師」→「漁師」.756ページの囲み内4行目「40,000万回」→「40,000回」.761ページの左カラム2行目「電気」→「電子」.その後に,酸化マグネシウムや酸化アルミニウムの電子は共有結合によって強く結びついている旨の記述がありますが,これらはイオン結合の割合の方が大きいと思います.783ページの左カラム18行目「電位」→「電気」.(初版6刷にて)