題名:力学の誕生 オイラーと「力」概念の革新
著者:有賀暢迪
発行:名古屋大学出版会(2018.10.15)
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☆☆☆☆★
18世紀の力概念の変革について書かれている本です.著者の博士論文を改訂したものとのことです.とても丁寧に書かれていて,もやもやしていてた「活力論争」についても,すこし整理できました.中学や高校も含めて力学を教える機会のある人に読んでおくことを勧めます.
著者:有賀暢迪
発行:名古屋大学出版会(2018.10.15)
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☆☆☆☆★
18世紀の力概念の変革について書かれている本です.著者の博士論文を改訂したものとのことです.とても丁寧に書かれていて,もやもやしていてた「活力論争」についても,すこし整理できました.中学や高校も含めて力学を教える機会のある人に読んでおくことを勧めます.
ハヤカワ文庫JA 青い海の宇宙港 春夏篇/秋冬篇
著者:川端裕人
発行:早川書房(2019.7.4)
☆☆☆☆★
小学生が外宇宙を目指す宇宙機を飛ばそう,というお話です.これだけだと荒唐無稽に聞こえますが,読むとそうでもなく,なんとなく納得できる展開になっています.フィクションですが,あの人やあの人の顔が,チラチラと浮かんできます.狭い世界ですね.
著者:銀林浩,銀林純
発行:日興企画(1999.7.30)
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☆☆☆★★
算数や数学で登場する用語や数式を英語でどう書くかが書かれている本です.図形などで「あれ,これってどう書くんだっけ」というときに便利です.資料として.
60頁に「速さ」として “speed”と “velocity” と書かれていますが,一般的に “velocity” は「速度」だと思います.また,102頁では三角関数が扱われていますが,時間や空間の次元が指定されていないのに振動数や周期に言及されているのが気になります.146頁の “An scalene triangle ...” は “A scalene triangle ...” ですね.
著者:結城浩
発行:SBクリエイティブ(2021.7.27)
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☆☆☆★★
「数学ガール」シリーズの主要登場人物たちが高校物理の力学を学ぶ様子が書かれている本です.平易に書かれていますが,数学ガールのキレみたいなものは感じられません.「数学ガールの秘密ノート」と同様の,やさしいレベルが想定されいるようです.それにしても,高校物理の教科書をなぞるような内容は,ちょっと物足りない.有効数字が考慮されていないあたりも,実験でデータを得て,そこから考える,というスタイルではありません.良くも悪くも数学的で,現実の世界とのつながりが弱い感じです.
著者,石井一夫
発行:(株)エスシーシー(SCC)
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☆☆☆★★
プログラミング言語 Julia の基本的な使い方などが書かれている本です.「はじめに」には「基本的にプログラミング言語の使用経験ない人を想定して書かれています」とありますが,初めのうちこそそんな感じで進むものの,間に受けていると途中から急に難しく感じられるかもしれません.また,構成不足で誤字やコードのミスなども目立ちらます.さらに,後述される内容が断りなく出てくるなど,構成上の問題も見受けられます.とはいえ,現状では初心者向きの本だと思います.資料として.
著者:進藤裕之,佐藤建太
発行:コロナ社(2020.4.17)
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☆☆☆★★
プログラミング言語 Julia の基本的な使い方などが書かれている本です.Julia については「1から」書かれていますが,プログラミングについての知識やスキルはある程度あることが前提に書かれています.まったくのプログラミング初心者が頼りにするのは難しいと思います.タイトルだけ見ると誤解しそうなので,注意が必要です.あと,表紙の「1」が目を引くので,シリーズ本のような印象を受けますが,おそらく単発です.資料として.
著者:バリー・パーカー
訳者:藤原多伽夫
発行:白揚社(2016.3.25)
The Physics of War: From Arrows to Atoms
by Barry Parker
2014
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☆☆★★★
兵器の変遷について書かれている本です.タイトルは『戦争の物理学』ですが,物理については期待外れです.「物理学」と名打つのなら,物理の説明はもっときちんとすべき,と感じます.たとえば,40頁の「慣性に打ち勝とうとすれば力が必要で」という説明や,210頁の衝撃波を説明する図,212頁の弾道の図の放物線,232頁の「期待を前進させるには,推力が抗力を上回らなければならない」という記述,273頁の図中の振幅の説明,293頁の「ジャイロ効果」の説明,324頁の「このときロケットには,自重による下方向への重力と,発射台からの反作用の力がかかっている」という記述,378頁の「核融合は重い元素では起きず,非常に軽い元素でのみ起きる」という記述など,それはまずいでしょ,という説明が多く見受けられます.歴史的な事柄に関しては詳しく書かれているのですが,そちらの信憑性まで疑わしく感じられてしまい,残念です.
また翻訳に関して,原著を確認していないので確定的なことはいえませんが,47頁の「螺旋状の回転翼」の「回転翼」はおそらく “rotor” で,飛行機の話ではなく,回転による送り機構のことなので,訳としては「螺旋状の回転子」ではないかと思います.284頁のマグネトロンを説明する図中に「回転する電子雲」とありますが,「電子雲」というと原子核を取り巻く電子の描像のことになるので,ここでは「電子群」のような言い方のほうがいいかと思います.
著者:大貫剛
発行:イカロス出版(2019.7.30)
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☆☆☆★★
宇宙開発についてミリタリーの視点から書かれている本です.月間『Jウイング』の連載「ミリタリーマニアのための宇宙開発講座」をまとめたものです.とても読みやすく,わかりやすい本です.資料として.
21頁の「Aft」のAは小文字ですね.校正漏れでしょうか.
著者:マイケル・モーズリー,ジョン・リンチ
訳者:久芳清彦
発行:東京書籍(2011.8.22)
THE STORY OF SCIENCE / Power, proof and passion
by Michael Mosley, John Lynch
2010
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☆☆☆★★
古代から現代までの科学の発見とそれに伴う世界の変化について書かれている本です.BBCのテレビシリーズの書籍版のようです.全編色刷りで図版が多いのですが,写真などの背景の上に文字が配置されていることがあり,読みにくいのが残念です.それにしても,最後のページの「注記」は笑えます.教科書も出している出版社なんだから,そこはなんとかして直そうよ,という感じです.資料として.
47頁にニュートンの運動法則の第1法則として「外からの力が加わらない限り,物体は静止または運動状態を維持する」のあとに「例えば,回転しているボールは摩擦の影響がなければ,回転し続ける」とありますが,「例えば」以降は誤りです.原著ではどう書かれているのかな.
75頁に「ヒンデンブルグ号の惨事」として「しかし,あの激しい炎上の仕方は、満載された水素ガスの可燃性の高さを再認識させるものだった」とありますが,あれは気嚢に塗られた塗料のテルミット反応だったと思うのですが.たしかに「再認識させるもの」ではあったわけですが,どうなのでしょうか.
著者:石津智大
発行:共立出版(2019.8.30)
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☆☆☆★★
神経美学について書かれている本です.といっても,神経美学なんて,耳にしたことありませんよね.神経美学(neuroaesthetics)とは,認知神経科学の一分野で,脳機能イメージングを使うなどして,脳の働きと美学的経験との関係や,脳の機能と芸術的活動との関係を研究する学問分野,とのことです.前半は脳機能イメージングの結果などから実験的にいえることなどが紹介されていますが,後半を過ぎると次第に仮説の話が増えていきます.まだ新しい学問分野とのことなので,今後に期待です.
題名:物語創世 聖書から〈ハリー・ポッター〉まで,文学の偉大なる力
訳者:塩原通緒,田沢恭子
発行:早川書房(2019.6.25)
THE WRITTEN WORLD / The Power of Stories to Shape People, History, Civilization
By Martin Puchner
2017
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☆☆☆☆☆
「書かれたもの」の歴史について書かれている本です.網羅的ではありませんが,世界各地に取材した広範な内容が含まれています.「世界史上最初の小説」として「源氏物語」が登場しますが、よく調べてあって驚きました.というより、知らないことがいっぱいでした.後半は軽めになりますが,前半は圧巻です.勉強になるだけでなく,いろいろなことを考えさせられる本です.
著者:永田靖
発行:朝倉書店(2005.3.25)
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☆☆★★★
統計学を勉強するために必要な数学の入門書として書かれた本です.「まえがき」によると「ていねいな説明が必要」という目的を持って書かれたとのことですが,「大学初年時の微積分や線形代数の教科書の1冊や2冊は手元に持っている」人を対象読者としていると書かれている通り,入門書としては記述が通り一遍です.既に統計のことを知っている人向きで,この本だけで統計学とそれに関する数学が理解するのは難しいと思います.また,朝倉書店の「数学30講シリーズ」をヒントにしてタイトルをつけた,とのことですが,ヒントというよりそのままですね.もう一工夫欲しいところです.資料として.
著者:中川毅
発行:講談社(2017.2.20)
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☆☆☆☆☆
7万年分の年縞堆積物から見える気候と人類史の関わりについて書かれている本です.気候変動というときの「変動」について,考えさせられました.丁寧ではあるが専門的にはなりすぎず,読みやすくはあるが手を抜かない,という感じです.過去の気候をどうやって調べるのかを知りたい人にもオススメです.
著者:松岡圭祐
発行:講談社(2016.11.1)
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☆☆☆☆☆
文部科学省の「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」に配属された一般職を主人公としたミステリーです.ミステリーといっても,陽に殺人は起きません(なぜ「陽に」などという表現をしたのかは,読んでいただけるとわかります).研究不正の方法などについていいたいこともありますが,エンターテインメントとして,とても楽しく読みました.Apple Book にて.
中盤で宇宙エレベーターが登場します.SFではないので,もちろん本物(?)の宇宙エレベーターではありません.微妙な立ち位置での登場ではありますが,扱いは誠実です.宇宙エレベーターの現状をよく調べた上で書かれているように感じました.
著者:佐藤靖
発行:中央公論新社(2019.6.25)
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☆☆☆★★
第2次世界大戦後の「科学技術」の歴史について書かれている本です.言葉遣いが無頓着ではないかな,と思うところがままありますが,簡潔にまとまっている印象です.資料として.
編集:日本地球惑星科学連合
発行:東京大学出版会(2020.5.22)
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☆☆☆☆★
日本地球惑星科学連合の30周年記念出版として,ニュースレター誌で取り上げられた話題を書き下ろしたものが集められた本です.タイトルから想像できる地球惑星科学の各分野から,科学コミュニケーションや「ブラタモリ」まで,広範な話題が取り上げられています.とても読みやすい著者と,とても読みにくい著者がいますが,著者の顔写真まで載っているので,なかなか思い切った企画だと思います.各文章の末尾に「一般向けの関連書籍」が一冊だけ載っているのも面白い.
著者:ランドール・マンロー
訳者:吉田三知世
発行:早川書房(2020.1.25)
HOW TO / Absurd Scientific Advice for Common Real-World Problems
by Randall Munroe
2019
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☆☆☆★★
日常的な課題を解決するための科学的な方法について書かれた本です.科学的ではあるが,現実的ではない話ばかりです.棒人間の漫画も含めて,著者による世界に浸ることができる人にとっては,楽しい本だと思います.本書ではテーマによって掘りの深さがずいぶん異なるのが気にはなるものの,読み応えありです.
199頁の斜面に置かれた物体に働く力についての図は,摩擦力が重力の斜面方向成分より大きくなっているのが気になりました.そんなはずはありませんよね.
248頁と356 頁に宇宙エレベーターについての記述があります.もっとも,248頁には「宇宙エレベーター」とは書かれてはいませんが.
著者:牧嶋昭夫
発行:朝倉書店(2020.7.1)
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☆☆☆☆★
宇宙からやってきた石についてや宇宙にある石を取ってくることについて書かれている本です.タイトルは「宇宙岩石入門」となっていますが,岩石だけではなく,宇宙や太陽系,地球の歴史から解きほぐされていて,これ一冊で広範な知識を得ることができます.また,宇宙探査についても書かれていて,守備範囲の広い本です.その分,岩石についての記述がざっくりしているのが残念ですが,致し方ないのでしょうね.
81頁の最後の段落は,唐突な感じです.改稿しているうちに移動を忘れてしまったかのようです.
125頁に「ハヤブサ」とありますが,探査機の名称なのでひらがなですね.他にも何か所も出てきているのになぜかここでけカタカナになっています.
著者:小美濃芳喜
発行:オライリー・ジャパン(2019.8.8)
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☆☆☆☆★
趣味のものづくりをしている人たちを念頭に,量産化や商品化についてのノウハウや手順について書かれている本です.実践的な内容が書かれているので,初心者というか,未経験者でも参考になるのではないかと感じられました.量産化にも商品化にも興味はありませんが,ものづくりの現場を垣間見ることができて,勉強になりました.資料として.
著者:暦本純一
発行:祥伝社(2021.2.10)
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☆☆☆★★
思考の方法や発想のコツなどについて書かれている本です.参考になる人もいるとは思いますが,とくに目新しいと感じることは書かれていませんでした.内容としては共感できる本です.
163頁に「(略)『イナーシャ』と呼んでいる.『慣性モーメント』を意味する言葉だ」との記述がありますが,「慣性」を意味する言葉ですね.
著者:早野龍五
発行:新潮社(2021.2.21)
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☆☆☆☆★
「社会の中での科学者」という生き方について書かれている本です.タイトルには「思考法」とありますが,思考法の解説というより自伝を語る中で思考法に触れていく,というスタイルで書かれています.文体も平易で読みやすいので,科学者ってなにを考えてるのかな,ということが気になる方にオススメです.
著者:デイヴィッド・サルツブルグ
訳者:竹内惠行,濵田悦生
発行:共立出版(2021.7.31)
Errors, Blunders, and Lies: How toTell the Difference
by David S. Sulsburg
2017
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☆☆★★★
統計学の考え方についてあまり数式を使わずに書かれている本です.具体的なトピックを扱うことで,統計学とはどのように数値を扱っているのかについて解説されています.タイトルにも使われている blunder を「大間違い」と訳しているのですが,間違いではないかもしれませんがちょっと引っかかります.「不注意による間違い」とか「ばかな間違い」のような訳が多いと思うのですが,どうなんでしょうか.このことと関係があるのかないのか,前半部分の翻訳がこなれていないため,とても読みにくく感じました.原著を読んでいないのではじめはもともと読みにくい文章なのかな,と思っていましたが,後半になると読み進めやすくなるので,そういうわけでもなさそうです.とにかく前半は,語尾に「のである」が多くて読みにくいのである.期待して読んだだけに,残念なのである.
また,意味のわからない記述もみられます.たとえば,17頁に「ビリヤード球についての(ガモフの原始物理学の世界でプランク定数と呼ばれる)不確実性の程度は、我々が通常見る対象物についての不確実性の数千倍も大きい」という記述は,何重にも意味がわかりません.25頁には「セレステ力学と呼ばれた」とありますが,日本語では聞いたことがありません.「天体力学」としておくほうがいいのではないかと思います.その後の文では「すべての観測値をかって?」と突然文章のスタイルの異なる問いかけがあり,とても不自然で読みにくく感じます.31頁には「ニュートンの運動の法則は速度(とそれに加えて加速度)か測定でき,特定の数値として表現できることを仮定している」とありますが,これもわかりません.
不親切と思われる部分もあります.たとえば,21頁に「偏差」が突然出てきますが,統計に不慣れな人に書かれた本としては不適当に感じられました.
29頁の「集号」は「集合」でしょうか.
38頁の「1964〜1985年」という部分には訳註として「原著では1963〜1985年と記されている」と訳出時に修正した旨のことが書かれていますが,グラフを見ると「1964〜1984年」のように見えます.そのグラフの横軸には,1965年と1970年の中間などに年号の入らない目盛線がつけられていて気になります.年毎のデータなので,その目盛線のところにデータは無いのですが.
著者:足立恒雄
発行:共立出版(2011.6.25)
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☆☆☆☆★
数概念の通史について書かれている本です.数とは何か,について,基本的には時系列に紹介されています.本文中では「数体系の進化史を模索するのが目的」と書かれています.丁寧にわかりやすす書かれているので,数学における数について興味がある人の入り口としてオススメです.資料として.
91頁下から3行目「公理だとう」→「公理だという」「い」が脱字でしょうか.
編著:石塚正英,黒木朋興
発行:朝倉書店(2016.3.25)
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☆☆★★★
コミュニケーション力や問題解決力を日本語表現の土台において身につけるための教科書,という触れ込みの本です.が,これを読んでも,著者がいうような「きちんとした文章」が描けるようになるとは思えません.サブタイトルに「アカデミックライティングのための基礎トレーニング」とありますが,それを期待して読むと肩透かしをくらいます.そもそも序論が強引で,読むのをやめようかと思ったくらいでした.その割に序論の最後では言い訳のようなことが書かれていて,内情を垣間見た思いです.本文は3部構成になっていて,第1部はアカデミックライティングについての概要説明のようになっています.その中で「全体の構成」を「イントロ・本論・結論」と説明されていて,なぜ序論ではなくイントロダクションでもなく,イントロなのか,気になってしまい,やはり読むのをやめようかと思ってしまいました.第2部と第3部は「アカデミックライティングの基礎知識」「アカデミックライティングの実践」というタイトルでなければ面白いトピックが並んでいるのに,無理矢理な構成のために残念な本になっているようです.
著者:川添愛
発行:東京大学出版会(2021.7.21)
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☆☆☆☆★
東京大学出版会のPR誌「UP」に連載されていたものに書き下ろしを加えたエッセイ集です.これまでの著者のスタイルと随分違って,「STO先生」の雑文のようだなぁ,と思って読んでいたら,本文や「あとがき」に理由のようなものが書かれていました.ある程度はそれで納得がいったのですが,それでも読んだ印象は,最初の6篇までとその後ではかなり異なります.はじめのうちは,言葉の粒度というか,織り目が詰まっている感じで,長く読み続けることができませんでしたが,あとになると軽く読み進めることができるようになります.次第に著者なりのスタイルというか,リズムができてきたのかな,という感じです.はじめの数篇だけ目を通して読むのをやめた方は,諦めずにもう少し読み進めることをお勧めします.
170頁に「米を洗う」という表現についての言及がありますが,「それはおかしい」という指摘に対して「無洗米」は「無研米」ではない,という反論が真っ先にあってもよさそうなのにな,と思いました.なにか意図があったのかな.
本文中の所々に矢印が出てきますが,この書体がとても気になります(たとえば,122頁).正方形対角線矢印(正方形の隣りあう2辺と対角線.独自の分類で,一般的な名称ではありません)という矢印で,これを文中に使うのは珍しいと思います.あ,ところで,こういった矢印の諸々についての雑文を連載させてくれる媒体を探しています.「T嬢」さん,いかがでょうか? ご連絡いただければ企画書を送ります.
著者:Fafs F. Sashimi(文),藤ちょこ(イラスト)
発行:KADOKAWA(2018.7.5)
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☆☆☆☆★
異世界転生ライトノベル風の言語習得(研究?)について書かれている本です.異世界の言語を何もわからない状態から学習(解析)している様子が小説形式で展開していきます.所々に現実世界での言語研究の様子などが挟まれていて,著者の出自を垣間見ることができます.それにしても,リパライン語というおそらく架空の言語を文字や文法などを含めて構築してから書き上げたのだと思いますが,大変な労力だったのではないでしょうか.異世界語のスペルチェックや字詰,ルビなどその校正作業は気が遠くなりそうです.節のタイトルがちょっとな,という部分もあるのですが,そんなことは気にならないくらい圧倒的な本です.回収されていない伏線や閉じていない展開が残念です.
著者:レイ・ブラッドベリ,サム・ウェラー
訳者:小川高義
発行:晶文社(2016.6.10)
LISTEN TO THE ECHOES: THE RAY BRADRURY INTERVIEWS
by Ray Bradbury, Sam Weller and Black Francis
2010
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☆☆☆★★
ブラッドベリへのインタビューが載っている本です.邦題では「自作を語る」となっていますが,自作だけではなく広範な内容について語っています.ブラッドベリが好きな人や,ブラッドベリの仕事に詳しい人には面白いかもしれません.予言の作家は,いまのパンデミックも予想していた,とかいわれそうですが,そういうことを指摘していた作家はたくさんいましたね.
「SFは,アイデアの小説なんだ.(略)どんなアイデアでもいいんだが,頭の中に発生して,まだ現実ではないが,いずれ現実になって世の中を変えて,もう元には戻れない,というようなアイデアがSFになる.世界のどこかを小さく変えるのであっても,そういうアイデアがあって書いたら,SFを書いていることになる.いわば可能性の芸術.ついだってそう,不可能を書くのではない」というあたり,わたしのSF観に近いみたいです.
著者:三上修
発行:岩波書店(2020.11.25)
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☆☆☆☆★
電柱や電線と鳥類の関係について書かれている本です.全体の1/4ほどが,電柱や電線に関する事柄の記述で,初めは「詳しすぎでは?」とも思いましたが,読み進むと「いやいやこれだけの記述で最小限でしょ」と思えるようになります.感電に関する話題で「電流の水流モデル」が出てきて,これはいかがなものか,と思っていたら,その直後の「コラム」で比喩で理解することについての言及がありました.苦労がしのばれます.街中で電柱や鳥たちを見て楽しみたい方にオススメ.
そういえば,西表島では道端の電柱によくカンムリワシが留まってて,「特別天然記念物でレッドリストなのに!」と驚いたことを思い出しました.
著者:浅田秀樹
発行:講談社(2021.3.20)
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☆☆★★★
三体問題について高度な数式を使うことなく解説することを目指した本です.「まえがき」によると,著者のいう「高度な数式」とは、高校数学を超える数式のことのようなので,そのつもりで読んだほうがよさそうです.たしかに本文では喩えによる説明が多く,苦心の跡が見られます.が,比喩が恣意的というか,数式を出さないようにするために,かえってわかりにくくなっているように思います.この比喩がわかるのは,数式を知っているひとだけではないかなぁ.
漢字の零は「僅か」という意味を含む,という話の流れで,p63に「気象予報士はれいパーセントといい,決してゼロパーセントといわない」のは,降水確率の0%は十刻みで四捨五入しているからわずかな降水確率が残っているかもしれないからだ,と書かれていますが,これは本当でしょうか? 単に放送中では0を「ゼロ」ではなく,「正しい」日本語の「れい」とよむ,という規則になっているからではないのかと思っていたのですが,どうなんでしょう.
著者:クライブ・ウィン
訳者:梅田智世
発行:早川書房(2021.5.20)
DOG IS LOVE / Why and How Your Dog Loves You
by Clive D. L. Wynne
2019
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☆☆☆☆★
イヌについて最近の科学的知見を基に書かれている本です.著者はイヌの認知科学の研究者で,自説をひたすら主張するのではなく,懐疑的な姿勢で書かれていて,好感が持てます.タイトルにもある「愛」については異論もあるとは思いますが,イヌに興味のある人にオススメです.
著者:森博嗣
発行:ワニブックス (2019.9.10)
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☆☆★★★
「面白い」とはどういうことかについて書かれている本です.前半は頷けることも書かれていますが,これといって新鮮な内容はありませんでした.後半は,著者が面白く生きてきたことが書かれていますが,他人が参考にできそうな内容でもなさそうです.ブックにて.
著者:黒木哲徳
発行:講談社(2021.2.20)
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☆☆☆★★
数学で現れる記号から数学の知識を深めることができる本です.2001年に講談社から出された『なっとくする数学記号』をまとめ直したもので,新書という体裁にまとめるためか,章の数が63から53へと減っています.図版も減らされているので,旧版の方が読みやすい印象です.時事ネタなどは記述のアップデートはされていて,例えば求められた円周率の桁数の世界記録は「2061億5843桁」から「31兆4159億2653万5897桁」になっています.
p68 に「スピード違反の取り締まりの計測器の原理は,ある一定の短い時間を走った距離を測定して表示している」とあり,旧版でも同じ記述ですが,距離と時間が入れ替わっていると思います.ただ,ドップラーシフトを使ったものもあるので,そいういう原理のものもある,という感じです.
p90 に「……演繹的な方法と機能的な方法があるが,前者はある法則や定理の発見や予測に用いられ,後者はそれを証明するのに用いられることが多い」とありますが,前者と校舎が入れ替わっているのではないでしょうか.ただ,旧版でも同じ記述なので,著者がそう考えているのかもしれません.
p158 の(3)の直後にある行列が書かれてる意味が不明です.旧版での符合の間違いが修正されているので,何某かの意味があると著者は考えているのだと思いますが,その前にある行列で十分でなはないかと思います.
p248 のギリシャ文字νの説明に,数学では「あまり使われることはない」とあります.物理では周波数や振動数に使われることが多い文字です.
著者:ジェシー・ベリング
訳者:鈴木光太郎
発行:化学同人(2021.1.31)
Suicidal / Why We Kill Ourselves
by Jesse Bering
2018
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☆☆☆☆★
自ら命を絶つというヒトに特有な行動について書かれている本です.自殺について,科学的なアプローチとインタビューで構成されています.扱っているテーマの重さと,それに向き合う姿勢の真摯さに,読み進めるのに時間がかかりました.読み応えのある本です.
著者:西浦博,川端裕人
発行:中央公論新社(2020.12.9)
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☆☆☆☆☆
厚生労働省クラスター対策班の一員として新型コロナウイルス感染症対策に感染症の数理モデルで指針を示した著者によって当時の様子が語られている本です.社会とのサイエンスコミュニケーションの難しさや,科学者の立場と政治や行政に組み込まれる葛藤が,ひしひしと伝わってきました.ブックにて.
著者:冲方丁
発行:早川書房(2021.4.25)
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☆☆☆★★
冲方丁による創作講座を全面的に再構成して書き下ろされた本です.「初心者向け」の「文筆の指南本」ではなく作家として生き残る,ということをテーマに書かれています.当然ですが,読んでも「生き残る作家」になることはできません.作家業のマネージメントなどについても書かれていて,なんだか裏側を覗かせてもらった感があります.
著者:山本弘
発行:東京創元社(2021.4.9)
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★★★★★
小説が少しだけ上手くなるテクニックが書かれている本です.いままで小説作法的な本を読み終えて「なんじゃそりゃぁ」と思ったことのある方にオススメです(というか,そういう方はもうとっくに読んでいるのではないかと思いますが).著者も書いているように,プロやプロを目指す方だけではなく,楽しみとして小説を書いている方にも,実践的な助言を含めて参考になる事柄が書かれています.誠実で真摯な態度で書かれているように感じました.小説の執筆を料理になぞられたのは秀逸だと思います.小説を書いていみたいと思う人,書いているけれどもう少しなんとかしたいと思っている人,必読です。
編者:日本認知科学会
著者:佐治伸郎
発行:共立出版(2020.2.28)
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☆☆☆★★
子供が意味の体系を構築していく過程について書かれている本です.タイトルからでは,わかりませんね.タイトル買をしたので,期待した内容とは大きく異なっていました(内容が面白くなかったというわけではありません).資料として.
p107 下から9行目の「結びつくと」の「と」はトル?
p140 5行目の「共有されることはな」の「な」はトル?
p158 最下行の「一期分は発話行為の観点から言えば,一語文は……」の「一語文は」はどちらかをトル?
p190 一行目の「スペクトルム」は物理的な意味の「スペクトル」なのでしょうか.「スペクトル」と「スペクトラム」はわかりますが,「スペクトルム」というのは見慣れません.また,物理的な意味の「スペクトル」だとすると,「ピンク」は含まれないと思うのですが?
p228 4行目の「日本語ならすべて「持つ」という動詞で呼ばれるような事態を」というのは無理があるように感じます.日本語でも「持つ」以外の動詞はあるのだから,「日本語では「持つ」という動詞でも表すことができる状況を」ということなのでしょうか?
著者:Scott McCloud
発行:HarperPerennial(1994)
Understanding Comics
by Scott McCloud
1994
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☆☆☆☆☆
コミックスや漫画の世界について描かれている本です.歴史や意味などについて,詳細に考察しています.これはペーパーバック版ですが,オリジナル版が発行されたのが1993年と古めですが,今でも発行されていることからも想像できるように,内容はあまり古くなってはいません.取り上げている例が古くなっているのは仕方がないし,技術的なことも古くはなっていますが.英語ですが,日本の漫画についてもとうぜん触れられています.
著者:今井むつみ
発行:岩波書店(2020.12.18)
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☆☆☆☆★
認知科学に基づく英語の学習法やその仕組みが書かれている本です.英語に限らず,巷で聞く学習法は怪し気なのが多い気がしますが,そういう耳障りのいい方法が気になる方に,ご一読を薦めます.どのような分野の学習についてもいえることが,多く指摘されています.ちなみに,この本を読んでも英語ができるようにはなりませんが,効果が望めないことに時間とお金を費やすのを避けることはできます.
著者:リック・エドワーズ,マイケル・ブルックス
訳者:藤崎百合
発行:草思社(2021.1.28)
Hollywood Wants To Kill You / The peculiar Science of Death in the Movies
Rick Edwards and Michael Brooks
2019
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☆☆☆★★
ハリウッド映画における死の扱われかたとその実際について書かれている本です.日本語タイトルから想像するほど,科学的には書かれていません.各節のはじめにある著者ふたりの SNS 風の掛け合いや,内容を斬ったようなコラムの入りかたが独特で,馴染めませんでした.著者たちのスタイルも,いろいろと茶化して書いている割に,自分たちも間違っていたりして,ちょっと恥ずかしい感じです.
46ページにあるグラフの横軸の目盛は,著者たち自身が「対数スケールに近い形で表現した」と書いてはいますが,それにしても酷い.対数軸にしなかったのはなぜなのだろう.
61ページの5行目に「大きな隕石同士が衝突して惑星が形成」とありますが,地表に落ちてこないと「隕」石にはならないので,「小天体同士」などとしておくべき.
120ページの2行目に「ワニやアリゲーターが」とありますが,アリゲーターもワニなので,「クロコダイルやアリゲーターが」だと思います.
184ページの9行目に「その幹細胞を幹細胞に戻した」とありますが,「その体細胞を幹細胞に戻した」の誤り?
194ページの最後の行に「ISSの液圧式フックによってドラゴンがドッキングポートへと」とありますが,「液圧式フック」って何でしょうね.文脈からすると「カナダーム2」のことかなと思いますが,あれは電動で油圧のような液圧は使っていないと思うのだけど.原著を見てみたい.
著者:広野由美子
発行:中央公論新社(2005.3.25)
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☆☆☆★★
メアリー・ シェリーの『フランケンシュタイン』を題材として小説の仕組みと読み方について書かれている本です.技法と批評の二部構成になっています.批評についてはあまり知らなかったので,多様な読み方ができるものだなぁ,と感心しました.世に出た小説は作者のものではない,という印象です.
著者:田中達之
発行:復刊ドットコム(2019.2.28)
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☆☆☆☆★
アニメやイラスト,漫画の描き方について書かれている本です.テクニカルなことも書かれていて参考になりますが,アニメ業界の闇的なことも書かれていて興味深かった.おそらくアニメ業界に限ったことではなく,日本の社会にいえることのように感じました.
著者:望月慎
発行:秀和システム(2020.4.1)
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☆☆★★★
現代貨幣理論(MMT)について書かれている本です.「はじめに」には「平易な形で改めて書いて」みたとありますが,平易というより簡略化して書いた感じで,経済学についての背景知識がないとよくわかりません.まあビジネス書なので,そういう人が想定読者なのかもしれませんが.
著者:全卓樹
発行:朝日出版社(2020.2.10)
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☆☆☆★★
科学についてのあれやこれやが書かれている本です.私の好みからすると抒情的すぎるように感じますが,世間的にはこういうのが好まれるようです.短く短時間で読み切れるエッセイ,なんとなく関係がありそうでよくわからない図版,中盤はそうでもないが序盤と終盤に炸裂する詩情,あたりが受ける要素でしょうか.
著者:多田旭男,中平 隆幸,上松敬禧,中野勝之
発行:三共出版 (1997.5.1)
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☆☆☆★★
科学(主に化学)の論文や発表にまつわる英語について書かれている本です.科学的な内容に関してはいいのですが,出版年が前世紀とあって流石に古さを感じます.資料として.
21ページに 10^9 の接頭辞 “giga [G]” の説明として「コンピューター用語.情報量を表す」とあるのは要修正です.
著者:本田弘之,岩田一成,倉林秀男
発行:大修館書店(2017.8.10)
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☆☆☆★★
街中などに掲示されている看板や案内表示について書かれている本です.とくに,外国から来た人たちからどう見られるか,という視点で書かれています.科研費の報告書を一般向けに改訂した感じです.資料として.
著者:平朝彦,国立研究開発法人海洋研究開発機構
発行:講談社(2020.11.17)
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☆☆☆☆★
固体地球について写真や図を使って解説している本です.カラーの写真や図が豊富で,2500円はお買い得です.解説も手抜きなしでやや難しく感じるかもしれませんが,別冊の「用語解説」がついているので心配いりません.資料として.
著者:川添愛
発行:新潮社(2021.1.25)
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☆☆☆★★
『白と黒のとびら』や『聖者のかけら』などの著者による言語学の役に立つ面が書かれている本です.四章構成のうち,第三章が役に立ちそうな印象でした.ふたつの文が互いを含意するかのテストは知らなかった.これから使わせていただきます.SNSなども含めて日本語を「使う」人は読んでおくことを勧めます.
著者:神舘和典,西川清史
発行:新潮社(2021.1.20)
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☆☆☆★★
排泄物のその後について書かれている本です.前半は大変面白く読みましたが,途中から失速感あり
.うんの尽き,でしょうか.期待が大き語っただけに,残念です.汚泥の山にトマトなどが生える,という話は興味深かった.